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ダービー 壺 (1760年頃)
A Derby Vase C.1760



 ダービーの壺。ダービー(D1-26)と同型かつ同サイズである。また、ダービー(D1-23)とも類似型である。

 バラを中心とした花束が胴体の3か所に、ほぼ同様の内容で描かれている。また肩の部分にはチューリップが描き加えられている。注目すべきは、首部分に貼り付けられた花に塗られた青の顔料が焼成中に胴体まで流れ落ちてしまっている点である。本品の彩色のうち青だけは染付(釉薬下の青)の可能性があり、そうだとすると、釉薬下に用いるコバルト顔料を上手くコントロールできなかったことが原因かもしれない。(ただし、胴体に描かれた青い花はエナメルで釉薬の上に描かれている(そちらの顔料は流れていない)。また、首に貼り付けられた花にも青エナメルで焼成後に加筆されたように見える部分がある。)

 花絵の描き方そのものも乱雑で、熟練した絵付師の仕事とは思われない。青地で失敗したため、エナメル絵付けも見習いの絵付師に回されたのでだろうか?

 ダービー初期のフリット質の素地はコバルト顔料に適さなかったと言われており、1760年代に入るまではダービーでは染付作品はほとんど作られなかった。それでも1762年には、コバルト顔料の調達に関する記録が残っている。また1764年にはウースター出身のRichard Holdship(ウースター(W6)を参照。)により、ウースターの素地で用いられていたソープロックが使用されるようになるとともに、染付による転写印刷も導入された。

 本品は基本的にエナメル絵付け作品であり、青が染付であるのかも明確ではないが、上記のような背景の中での実験的な作品だった可能性はある。裏面に英国陶磁器の権威だった故ジェフリー・ゴッデンの'Reference Collection'ラベルが貼られているが、彼も本品のこうした点に関心を持ったのかもしれない。


高さ(Height):15cm

マーク:裏面にパッチマーク
Marks:Patch marks at the bottom

参照文献/References:
- Dennis G. Rice "Derby Porcelain The Golden Years 1750-1770" Plate 108(b) and pp.59 & 204
- Geoffrey A. Godden "English Blue and White Porcelain" Chapter VII (Derby and Isleworth)


(2020年6月掲載)